基本編では、SMA・EMA・WMA・SMMAの4種類を解説しました。
これらを使いこなせていれば、日常のトレードで困ることはほとんどありません。
では、なぜ「応用編」が必要なのか。
答えは、基本の移動平均線が抱える弱点を克服するためです。
・EMAは早いけど、ノイズに弱い
・SMAは安定しているけど、遅すぎる
・どちらも「遅延」という宿命から逃れられない
応用編で紹介する6種類の移動平均線は、これらの弱点を数学的・統計的なアプローチで改善しようとしたものです。
本記事では、HMA・DEMA・TEMA・LSMA・VWMA・ALMAの特徴と、実践での使いどころを解説します。
基本編の内容を理解している前提で進めますので、まだの方は先に基本編をご覧ください。

【この記事でわかること】
・基本の移動平均線が持つ「弱点」とは何か
・HMA・DEMA・TEMA・LSMA・VWMA・ALMAの仕組みと特徴
・各移動平均線が「何を解決しようとしているか」
・実践トレードでの使い分け
HMA(ハル移動平均線)
HMA(Hull Moving Average)は、オーストラリアのトレーダー、アラン・ハル氏が2005年に考案した移動平均線です。
「遅延を減らしながら、滑らかさも保つ」という、相反する2つの要素を両立させることを目指して作られました。
なぜHMAが生まれたのか
従来の移動平均線には、ある宿命がありました。
・反応を早くすると、ノイズが増える(EMA)
・滑らかにすると、遅延が大きくなる(SMA、SMMA)
「早さ」と「滑らかさ」はトレードオフの関係にある、というのが常識だったのです。
アラン・ハル氏は、この常識を数学的なアプローチで打ち破ろうとしました。
計算の考え方
HMAは、WMAを組み合わせた独自の計算方法を使います。
① 期間nのWMAを計算
② 期間n/2のWMAを計算
③ ②×2 − ① を求める
④ ③に対して√n期間のWMAをかける
…数式で見ると複雑ですが、要するに「短期WMAと長期WMAの差分を使って、遅延を打ち消す」という発想です。
HMAの特徴
・遅延が非常に少ない 同じ期間のEMAと比較しても、明らかにトレンド転換への反応が早いです。
・滑らかさも維持 早いのにギザギザしない。
これがHMA最大の強みです。
・トレンド転換が視覚的にわかりやすい HMAは傾きが変わるタイミングが明確なので、転換点の判断がしやすくなります。
注意点
・「早すぎる」ことがある 遅延を減らしすぎた結果、まだトレンドが確定していない段階でサインが出ることも。
・使用者が少ない SMAやEMAのように「みんなが見ている線」ではないため、サポート・レジスタンスとしての機能は期待しにくいです。
HMAが向いている場面
・トレンド転換を素早く捉えたいとき
・エントリーの精度を上げたいとき
・EMAでは遅いと感じるとき
DEMA・TEMA(二重・三重指数移動平均線)
DEMA(Double Exponential Moving Average)とTEMA(Triple Exponential Moving Average)は、EMAを「重ねがけ」することで遅延を減らそうとした移動平均線です。
1994年にパトリック・マロイ氏が考案しました。
なぜDEMA・TEMAが生まれたのか
EMAは直近の価格を重視することで、SMAより早い反応を実現しました。
しかし、それでもまだ「遅い」と感じるトレーダーがいました。
「EMAをさらに進化させられないか?」
その答えが、EMAにEMAをかける、という発想でした。
計算の考え方
DEMAは、EMAの遅延成分を打ち消すように計算します。
DEMA = 2 × EMA − EMA(EMA)
TEMAは、これをさらにもう一段重ねます。
TEMA = 3 × EMA − 3 × EMA(EMA) + EMA(EMA(EMA))
…数式は複雑ですが、考え方は「EMAの遅れを、EMA自身で補正する」というものです。
DEMA・TEMAの特徴
・EMAより反応が早い 同じ期間で比較すると、TEMA > DEMA > EMA の順で反応速度が上がります。
・計算がシンプル HMAのように複数の異なる期間を組み合わせるわけではなく、単純に「重ねる」だけなので、ロジックが理解しやすいです。
・段階的に選べる 「EMAじゃ遅い、でもTEMAは早すぎる」と感じたら、DEMAという中間択がある。この選択肢の幅が強みです。
注意点
・早くなった分、ダマシも増える HMAと同じ宿命です。遅延を減らすほど、ノイズへの耐性は落ちます。
・TEMAは「早すぎる」ことも 三重にかけた結果、実際の価格変動より先に動いているように見えることすらあります。
DEMA・TEMAが向いている場面
・EMAの反応速度に不満があるとき
・段階的に「早さ」を調整したいとき
・短期のスイングトレードで精度を上げたいとき
LSMA(最小二乗移動平均線)
LSMA(Least Squares Moving Average)は、他の移動平均線とはまったく違うアプローチを取ります。
「平均」ではなく、「回帰分析」という統計手法を使って、価格のトレンドを直線で近似するのです。
線形回帰移動平均、リニアリグレッションとも呼ばれます。
なぜLSMAが生まれたのか
従来の移動平均線は、どれも「過去の価格を平均する」という発想でした。
しかし、平均にはどうしても「遅延」がつきまといます。
LSMAは発想を変えました。
「過去のデータから、価格がどこに向かっているかを予測できないか?」
その答えが、最小二乗法による回帰直線でした。
計算の考え方
LSMAは、指定期間の価格データに「最もフィットする直線」を引きます。
この直線の「現在地点での値」をプロットしていくことで、移動平均線のような曲線ができあがります。
イメージとしては:
・過去n日間のデータに、定規で直線を引く
・その直線の「今日の位置」を読み取る
・これを毎日繰り返す
LSMAの特徴
・トレンドの「方向性」を捉えやすい 回帰直線は「このまま行けばどこに向かうか」を示すため、トレンドの方向が視覚的にわかりやすいです。
・価格に近い位置を動く 計算の性質上、他の移動平均線より価格に近い位置を動く傾向があります。
・「未来予測」的な性質 厳密には予測ではありませんが、回帰直線の延長線上に価格が向かいやすい、という考え方ができます。
注意点
・レンジ相場に弱い 回帰分析は「トレンドがある」前提で機能します。
方向感のない相場では、意味のないシグナルが出やすくなります。
・急な転換についていけない 直線でフィットさせる性質上、急激なトレンド転換では遅れが出ます。
LSMAが向いている場面
・明確なトレンド相場
・トレンドの「傾き」を数値化したいとき
・他の移動平均線と組み合わせて使うとき
VWMA(出来高加重移動平均線)
VWMA(Volume Weighted Moving Average)は、価格だけでなく「出来高」を計算に組み込んだ移動平均線です。
「どれだけ取引されたか」という市場参加者の行動を、移動平均線に反映させようという発想から生まれました。
なぜVWMAが生まれたのか
従来の移動平均線は、すべて「価格」だけを見ています。
しかし、同じ1,000円でも:
・出来高100万株での1,000円 ・出来高1万株での1,000円
この2つは、市場における「重み」がまったく違います。
大量の売買が成立した価格帯は、多くの市場参加者が「この価格が妥当だ」と判断した証拠。
VWMAは、この「市場の総意」を移動平均線に反映させます。
計算の考え方
VWMAは、各日の価格に出来高を掛けて重み付けします。
VWMA = Σ(価格 × 出来高)÷ Σ(出来高)
出来高が多い日の価格は重く、出来高が少ない日の価格は軽く扱われます。
つまり、「市場が注目した価格帯」が、より強く移動平均線に反映されるのです。
VWMAの特徴
・出来高急増日の影響が大きい 決算発表やニュースで出来高が跳ね上がった日の価格は、VWMAに強く反映されます。
・実質的なサポート・レジスタンスに近い 大量の売買が成立した価格帯は、多くのトレーダーの「建値」が集中している場所。
VWMAは、そのような価格帯を自然と反映するため、サポート・レジスタンスとして機能しやすいです。
・価格だけでは見えない情報が入る SMAやEMAが「何が起きたか」を見るのに対し、VWMAは「どれだけの人が動いたか」も見ている。
この違いは大きいです。
注意点
・出来高が安定しない銘柄では不安定に 出来高が日によって大きく変動する銘柄では、VWMAも不安定な動きになりがちです。
・流動性の低い銘柄には不向き そもそも出来高が少ない銘柄では、VWMAの意味が薄れます。
VWMAが向いている場面
・出来高を重視したトレードをするとき
・サポート・レジスタンスの精度を上げたいとき
・価格と出来高の関係を分析するとき
ALMA(アルノー・ルグー移動平均線)
ALMA(Arnaud Legoux Moving Average)は、2009年にアルノー・ルグー氏とドミトリス・カウジス氏によって開発された、比較的新しい移動平均線です。
「ガウス分布」という統計的な重み付けを使い、滑らかさと反応速度の両立を目指しました。
なぜALMAが生まれたのか
従来の移動平均線の重み付けには、ある傾向がありました。
・SMA → すべて均等 ・EMA/WMA → 直近が最も重い ・SMMA → 直近重視だが緩やか
どれも「直近」か「均等」か、という二択だったのです。
ALMAは、第三の選択肢を提示しました。
「期間の中央付近に最も重みを置いたらどうか?」
計算の考え方
ALMAは、ガウス分布(正規分布)のカーブを使って重み付けを行います。
イメージとしては:
・期間の「中央あたり」の価格に最も大きな重み
・期間の「端」の価格には小さな重み
・釣鐘型のカーブで、滑らかに重みが変化する
さらに、ALMAには調整パラメータがあります。
・Offset(オフセット)→ 重みの中心をどこに置くか(0〜1)
・Sigma(シグマ)→ カーブの鋭さを調整
Offsetを1に近づけると直近重視(EMAに近い動き)、0に近づけると過去重視になります。
ALMAの特徴
・非常に滑らか ガウス分布による重み付けは、急激な変化を自然に吸収します。
ノイズに強く、見た目も美しい曲線を描きます。
・カスタマイズ性が高い OffsetとSigmaを調整することで、自分のトレードスタイルに合わせた動きに調整できます。
・「中央重視」という独自性 直近でも過去でもなく、期間の中央を重視する。
この発想は他の移動平均線にはありません。
注意点
・パラメータ調整が難しい 自由度が高い反面、最適な設定を見つけるのに時間がかかります。
・デフォルト設定が正解とは限らない ツールによってデフォルト値が異なるため、自分で検証する必要があります。
・使用者が非常に少ない 新しい指標のため、「みんなが見ている」効果はほぼ期待できません。
ALMAが向いている場面
・滑らかさを最優先したいとき
・パラメータを自分で追い込むのが好きなとき
・他のトレーダーと違う視点を持ちたいとき
応用編まとめ:10種類の移動平均線を比較
基本編4種と応用編6種、合わせて10種類を一覧にします。
| 種類 | 反応速度 | 滑らかさ | 特徴 | 使用者 |
|---|---|---|---|---|
| SMA | 遅い | 普通 | 均等平均、王道 | 非常に多い |
| EMA | 早い | 普通 | 直近重視の基本形 | 多い |
| WMA | 早い | 普通 | 線形の重み付け | 少ない |
| SMMA | やや遅い | 滑らか | MT4/MT5で標準 | MT系ユーザー |
| HMA | 非常に早い | 滑らか | 遅延と滑らかさの両立 | 少ない |
| DEMA | 早い | 普通 | EMAの二重がけ | 少ない |
| TEMA | 非常に早い | 普通 | EMAの三重がけ | 少ない |
| LSMA | 早い | 普通 | 回帰分析ベース | 少ない |
| VWMA | 状況次第 | 普通 | 出来高を反映 | 出来高派 |
| ALMA | 調整可能 | 非常に滑らか | ガウス分布、中央重視 | 非常に少ない |
結局、どれを使えばいいのか
10種類を見てきましたが、正直なところ、SMAとEMAで十分というのが現実です。
応用編の移動平均線は、どれも「遅延を減らす」「滑らかにする」という改良を試みていますが、その代償としてダマシが増えたり、設定が複雑になったりします。
大切なのは、指標を増やすことではありません。
・自分のトレードスタイルに合った1〜2種類を選ぶ
・その特性を深く理解して使いこなす
・他の分析手法と組み合わせる
移動平均線は、あくまでトレンドを「視覚化」するツール。
最終的な判断は、価格の動き、出来高、そして市場全体の流れを見て行うものです。

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